「うちの社員、最近すぐに心が折れてしまう」「打たれ弱い若手をどう育てればよいのか」
近年、こうしたご相談をいただくことが目に見えて増えました。しかし、レジリエンスは「もって生まれた性格」ではありません。脳科学の研究が示す通り、後天的に育てられる力です。
22年の企業人事経験と、心理学・脳科学に基づいた研修登壇の現場から見えてきた、レジリエンスとセルフマネジメントの本質をお伝えします。
レジリエンスとは「打たれ強い」ことではない
レジリエンス(Resilience)とは、もともと「弾力性」「回復力」を意味する言葉です。日本では「折れない心」「打たれ強さ」と訳されがちですが、これは正確ではありません。
レジリエンスの本質は、「ストレスを受けても、しなやかに回復し、さらに成長する力」です。竹が風に揺れても折れずに元の姿に戻るように、ストレスや逆境に直面したとき、一時的に落ち込んでも立ち直り、そこから学び、次に活かす。「打たれても感じない強さ」ではなく、「揺れても戻れる柔軟さ」だとお考えください。
レジリエンスは「生まれつき」ではない──脳科学が示す、育つ力
「あの人はもともと強いから」「自分はメンタルが弱いタイプだから」──こうした思い込みは、最新の脳科学研究では否定されています。
脳には可塑性(plasticity)という性質があり、何歳になっても、新しい思考のパターン・感情の処理の仕方を学び直すことができます。実際、レジリエンスを高める介入研究では、数ヶ月の取り組みで明確な変化が観察されています。
つまり、レジリエンスは研修や日常の実践によって、後天的に育てられるのです。「性格だから仕方ない」ではなく、「育てられるから取り組む」というスタンスで設計する。これがメンタル領域の研修における科学的な前提です。
レジリエンスの高い人に共通する4つの力
私が研修で多くの方々と関わるなかで、また心理学の研究知見と照らし合わせるなかで、レジリエンスの高い人には共通する4つの力があると感じています。
同じ出来事でも、「失敗」と捉えるか「学びの機会」と捉えるかで、その後の行動が変わります。ひとつの解釈に固執せず、別の角度から物事を見ることができる力です。
怒り・不安・落ち込みなどの感情を、無理に抑え込むのではなく、「自分は今こう感じている」と認識し、適切に扱う力。マインドフルネスの訓練で養われます。
「自分はすごい」ではなく、「失敗しても、自分には価値がある」と思える基盤の感覚。これがあるから、ミスをしても立ち直れます。
困ったときに「助けて」と言える力。意外にも、レジリエンスは「個人の強さ」だけでなく、「人とつながる力」によって支えられています。
組織がレジリエンスを支える3つの仕組み
個人だけが努力しても限界があります。組織側の仕組みが伴って初めて、レジリエンスは持続可能になります。
仕組み1:社員にセルフマネジメントの「言語」を装着する
ストレスや感情を「言語化」できないと、人は対処できません。自分のストレスサインに気づく、感情を言葉にする、対処法を選択する──こうした基本動作を、研修を通じて社員に「共通の言語」として装着することが、組織全体のレジリエンスを底上げします。
仕組み2:「弱音を吐いていい」文化──心理的安全性
「弱音を吐いたら評価が下がる」「相談したら出世に響く」と感じる職場では、誰も助けを求めません。レジリエンスを支える土台は、「助けを求めても大丈夫」と思える組織文化=心理的安全性です。これは経営層からのメッセージと、管理職の日々の関わり方で作られます。
仕組み3:管理職の「気づき・聴く・つなぐ」スキル
部下のメンタルの変化に最も早く気づける立場にいるのは、直属の上司です。しかし多くの管理職は、部下の変化に気づくスキル、安心して話せる対話の進め方、必要に応じて産業医・人事につなぐ判断を、体系的に学んでいません。ラインケア研修を通じて、これらを管理職全員の標準スキルにすることが、組織のレジリエンスを支える最重要施策となります。
おわりに:個人と組織は、両輪である
レジリエンスは、個人と組織の両輪で育まれます。個人だけがセルフマネジメントを学んでも、組織が支えなければ消耗します。組織だけが制度を整えても、個人にスキルがなければ揺れます。
「折れない組織は、折れない個人から。折れない個人は、折れない組織が育てる。」
これが、私が研修現場で実感してきた真実です。22年の企業人事経験のなかで、EAPの導入から社員のセルフケア研修、管理職のラインケア研修、組織風土改善まで、体系的に取り組んできました。その実践知を、現在は研修・組織開発支援という形で、多くの企業にお届けしています。
